追い込み馬ってどんなタイプ?
競馬にはレース展開というものがあり、出走馬は大きく5つの脚質(走り方のタイプ)に分類されます。それが「逃げ」「先行」「差し」「追い込み」、そして「自在」です。中でも自在型は、どの位置からでも自在にレースを進められる万能タイプと言えます。
「逃げ」以外の馬たちは、位置取りによって3つのグループに分けられます。最初のグループが「先行」、2つ目が「中団」、そして3つ目が「後方」です。「中団」に位置する馬の脚質が「差し」、「後方」に位置する馬の脚質が「追い込み」となります。
レース中の位置取りによってこのようにグループ分けされ、それぞれに脚質の特徴があるという点を、まずしっかり理解していただきたいと思います。
差し馬と追い込み馬の違い
差し馬や追い込み馬は、直線での末脚に優れた馬が多いのが特徴です。ただし、追い込み馬については、馬群に入りたがらないタイプや、レースの流れに対応しきれないタイプも目立ちます。そのため、後方のままレースを終えるケースも少なくありません。実際に追い込んでいなくても追い込みタイプに分類される馬が多いのも、この脚質の特徴といえます。
JRA-VANの出馬表や競馬新聞では「上がり3ハロン」(1ハロン=200m)というデータが記載されており、これは最後の600mを何秒で走ったかを示すものです。この上がり3ハロンのタイムが最も速い馬を「上がり最速」と呼び、差し馬や追い込み馬に多く見られます。瞬発力を測る重要な指標といえるでしょう。
差し馬は先行集団からあまり離されずに追走し、絶好のタイミングで仕掛けるのが特徴です。一方で、追い込み馬はレース前半でスタミナや末脚を温存し、後半の一気の追い込みに賭けるスタイルが主流です。
次に、追い込み馬にとって有利な展開や得意なコースについて詳しく解説していきます。
追い込み馬が好走する条件・コースとは?
追い込み馬が好走する条件の前に、追い込み馬が持つデメリットについても説明しておく必要があります。
最大のデメリットは
「レースの展開に大きく左右される」
というわけで、スローペースで後方に位置していた場合、追い込み馬が逃げ馬や先行馬との差を一気に詰めるのは非常に困難です。一般的に、逃げ・先行馬が楽なペースでレースを進めている場合、差し馬や追い込み馬は不利になります。競馬用語では、追い込みが届かずに力を発揮しきれないことを「脚を余す」と表現し、多くのレースでよく見られる現象です。
さらに、逃げ・先行馬は道中での距離ロスが少ない傾向があるのに対し、追い込み馬はコーナーで大外を回ったり、直線で外に持ち出したりする際に、どうしても距離ロスが発生しがちです。この点も、追い込みが決まりにくい一因といえるでしょう。
もちろん、直線一気の鮮やかな追い込みが決まる瞬間は見ごたえがありますが、それが実現するのは簡単なことではありません。では、どのような状況で追い込みが決まりやすくなるのでしょうか?大きく分けて、以下の2つのパターンが考えられます。
- 逃げ・先行馬がハイペースで飛ばし、後半バテる展開となったとき
- 逃げ馬から追い込み馬まで道中でそれほど差がなく、直線での瞬発力勝負になったとき
まず1つ目のパターンは、逃げ・先行馬が多く揃ったときに発生する展開です。レース序盤から先行勢が競り合い、自然とハイペースになる場合、先行馬や中団に位置する差し馬でさえ後半にスタミナ切れを起こすことがあります。このような状況では、後方で脚を溜めていた追い込み馬に「展開の利」が生まれやすくなります。
特に、ハイペースで逃げ馬が複数いる場合は、思い切って追い込み馬を狙う戦略が有効です。例えば、時計の掛かるダート短距離で、前の馬たちがバテてしまうような展開では、ゴール直前での大逆転が見られることも珍しくありません。
2つ目のパターンは、スローペースで後半に各馬のスピード勝負となる、いわゆる「ヨーイドンの競馬」が起こる場合です。このようなスパート合戦では、瞬発力やスピードが他馬を大きく上回る追い込み馬が優位に立つことがあります。出走馬の中に積極的に逃げたい馬がいない場合、スローペースが予想されるため、特に瞬発力に優れた追い込み馬を狙うのは効果的な馬券戦術です。
それでは、追い込みが決まりやすいコースについて説明します。ここでのデータは、2015年~2019年10月末までの期間を対象に、施行レース数100以上のコースを分析したものです。
(※JRA-VANデータラボ対応ソフト「TARGET frontier JV」による分類)
<勝率トップ3>
1. | 7.8% | 新潟芝外回り2000m |
---|---|---|
2. | 4.9% | 新潟外回り1800m |
3. | 4.7% | 東京芝2400m |
<複勝率トップ3>
1. | 21.3% | 新潟芝外回り2000m |
---|---|---|
2. | 16.2% | 阪神芝外回り2400m |
3. | 16.0% | 京都芝外回り2400m |
まず、追い込み馬の勝率トップ3を見てみましょう。新潟芝外回り2000mが圧倒的な7.8%で1位に輝いています。これは2位・3位を大きく引き離す数値です。このコースは日本一長い658.7mの直線を誇り、追い込みが決まりやすいレイアウトとなっています。さらに、複勝率(3着以内に入る確率)も21.3%と非常に高く、追い込み馬を狙う上で注目すべきコースです。
追い込み馬が好走しやすいコースには共通点があります。それは、「距離が中長距離であること」と「直線が長いコースであること」です。追い込みタイプの馬は加速に時間がかかる一方で、長く速い脚を使える特徴を持つため、このようなコースでその能力を最大限に発揮できるのです。
一方で、ダートコースでは追い込みが決まりにくい傾向があります。追い込み馬の勝率・複勝率ともに上位にはダートコースがほとんど入っていません。ダートコースで最も高いのは東京ダート1400mで、勝率が2.5%、複勝率が9.0%にとどまります。芝と比べると追い込みが難しい競馬場であることは、予想の際にしっかり意識しておきたいポイントです。
<競馬場別複勝率トップ3/芝>
1. | 10.6% | 東京 |
---|---|---|
2. | 10.4% | 阪神 |
3. | 9.9% | 京都 |
続いて、芝コースで追い込み馬の複勝率が高い競馬場別トップ3を見ていきましょう。
1位は東京コースで10.6%。東京競馬場は直線が500m以上と長く、追い込み馬がその特徴を生かしやすい競馬場です。直線の長さが後方からの末脚を活かす絶好の条件となっています。
2位には阪神コースがランクイン。ゴール前に急坂があるタフなコースですが、しっかりとした末脚を持つ馬には有利な条件が揃っています。
3位は京都コース。意外にも直線が平坦である京都がランクインしていますが、ここでは瞬発力が問われる展開で追い込みが決まるケースが多いようです。
一方で、直線が短い小回りのローカルコースでは追い込み馬にとって厳しい傾向が見られます。
例えば、札幌芝(5.8%)、福島芝(5.1%)、小倉芝(5.0%)と複勝率が低く、これらの競馬場では先行馬が有利な展開になりやすいと言えます。追い込み馬を狙う場合、競馬場の特徴をしっかり把握しておくことが重要です。
<競馬場別複勝率トップ3/ダート>
1. | 8.3% | 東京 |
---|---|---|
2. | 6.2% | 京都 |
3. | 5.3% | 中京・阪神 |
ダートにおける追い込み馬の複勝率が高い競馬場を見ていくと、やはり直線の長い東京コースが8.3%と、他を大きく上回る結果となっています。これに続くのが京都、中京、阪神の各コースです。一方で、ダートでは函館、札幌、福島、小倉といった競馬場が複勝率2%台に留まっており、追い込み馬には厳しい条件であることがわかります。
こうした競馬場別のデータを見ると、追い込み馬を馬券で狙うのは難しいように思えますが、例外的に狙えるパターンがあります。それは、**「追い込みが決まりやすい馬場状態やレース傾向になっている場合」**です。
例えば、2019年5月5日のNHKマイルCがメインレースだった2回東京開催6日目の芝コースを例に挙げてみましょう。この日のレースは、どのような条件下で追い込み馬が台頭したのかを検証することで、有利な条件を見極めるヒントとなるでしょう。
1着8番カヴァル
→8頭立てで大外の8番が追い込んで勝利
1着10番アンノートル
2着12番レジーナドーロ
→17頭立てで2ケタ馬番の馬が追い込んで1、2着
また、この日のレースでは外枠の追い込み馬が好走しやすい傾向が見られました。これは単なる偶然ではなく、直線で外から差し・追い込みが決まりやすい馬場状態が影響していたと考えられます。
馬場状態の変化やレース当日の傾向を見極めることで、普段は不利とされる追い込み馬でも狙い目となるケースがあります。このように、データと馬場状態をしっかりと分析することが、馬券の的中率を高める重要なポイントとなるのです。
1着17番アドマイヤマーズ(2番人気)
2着18番ケイデンスコール(14番人気)
3着10番カテドラル(7番人気)
18頭立てのレースで、馬番17番、18番が1・2着、さらに3着にも10番という2ケタの馬番が上位を占めました。このレースでは、ケイデンスコールのみが追い込みタイプに分類されており、1・3着は差し馬だったものの、14番人気で2着と激走しました。このような結果は、あらかじめレース傾向や馬場の特徴を把握しておくことで、外枠の差し・追い込み馬に有利な流れに気づくことができたかもしれません。
実際、JRA-VANでは、メニューページから「レース傾向」を検索することができ、3着以内に好走した馬の脚質や馬番、種牡馬といった傾向を把握することができます。こうした情報を活用することで、レースの流れや馬の特徴をより深く理解し、的中率を高めることが可能となります。
これはすごい! 追い込み名場面
ここからは、競馬史に残る追い込みの名場面をご紹介していきます。
まずは、2000年のブロードアピールが勝利した根岸ステークスです。このレースは、競馬ファンにとって非常に印象深いものとなっており、日本中央競馬会(JRA)の公式YouTubeチャンネル「このレースがスゴい! 追い込み編パート1」でも取り上げられています。
ブロードアピールの圧倒的な追い込みを目の当たりにしたファンの記憶に残り、今もなお語り継がれる名場面の一つです。
まず、最初に登場するのはブロードアピールです。2000年根岸ステークス、ダート1200mで行われたこのレースでは、ブロードアピールが単勝1番人気に支持されていました。前半600m通過は34秒1とやや緩やかな流れで、逃げたエイシンサンルイスや先行馬たちも直線に入る時点ではまだ末脚が残っている状態でした。しかし、ブロードアピールは直線入り口で最後方に位置しており、前の馬との距離はかなりありました。
それでも、大外を回ったブロードアピールは、トップスピードに乗り一気に内側の馬たちを交わしていきます。残り200mで先行馬たちを射程圏内に捉え、ラストスパートを開始。そのまま1頭ずつ並ぶ間もなく交わし、残り100mを切った時点で残るのは逃げるエイシンサンルイスだけ。これも鮮やかに交わし、ついに先頭でゴールを駆け抜けました。
このレースでのブロードアピールの上がり3ハロンは34秒3。まるで芝並みのタイムで、他の馬とは次元が違う末脚を見せつけました。特に、ダートコースでは逃げ馬や先行馬が有利になることが多い中で、直線一気の追い込みを決めたこの勝利は非常に珍しいものでした。
続いて、2009年のオークスを挙げておきます。このレースでは、前走の桜花賞を制したブエナビスタが単勝オッズ1.4倍で圧倒的に支持され、レッドディザイアが2番人気で続きます。桜花賞で半馬身差の2着に終わったレッドディザイアが再びオークスで名勝負を繰り広げます。このレースは、「このレースがスゴい! 追い込み編パート2」の冒頭に登場しており、その名勝負を物語っています。
直線では、内側からスムーズに先頭に躍り出るレッドディザイア。一方、ブエナビスタは4コーナーではまだ後方に位置しており、大外を回って一気に追い込みをかけますが、残り200mではレッドディザイアが4馬身ほどリードしていました。
内で粘るレッドディザイアと外から追い込むブエナビスタ。両者の壮絶な追い比べは最後まで続き、わずかにハナ差でブエナビスタが交わしてゴール。ブエナビスタに軍配が上がりました。
この二頭の対決は続き、オークスで二冠を達成したブエナビスタと、2戦続けて2着の惜敗をしたレッドディザイア。秋華賞では、ついにレッドディザイアが初めてブエナビスタに勝利します。
ブロードアピールやブエナビスタのように、直線一気の追い込みが決まると非常に鮮やかで、「他の馬が止まって見える」ような錯覚を覚えます。追い込みが「届くか、届かないか」のスリルは、競馬の醍醐味の一つともいえるでしょう。
まとめ
人それぞれに個性があるように、競走馬にもそれぞれの走り方のタイプがあります。スタートで出遅れがちだったり、前半は控えめに走り、後半に一気に本気を出す追い込み馬。確かに狙いにくいタイプですが、その分、魅力的でもあります。そして、実際に追い込んで勝つ瞬間には、大きな興奮と満足感をもたらしてくれる存在です。
追い込みが決まりやすい競馬場やコースを事前に理解しておくことは非常に重要です。正しいデータと情報を知ることは、馬券を購入する際に必要な一歩となります。また、当日の馬場状態やレース傾向を把握することも欠かせません。例えば、芝の状態が軽くて時計が速いのか、逆に重くて時間がかかるのか、開催が進むごとに馬場のどこが荒れているか、直線で内側の状態が良いのか外側が有利なのかなどの情報です。
逃げ馬や先行馬が粘れない展開になり、追い込み馬が台頭する馬場状態では、人気薄でも追い込み馬を思い切って狙う戦略が有効です。
馬券を購入するために知りたい正しい情報を提供してくれるのがJRA-VANです。JRA-VANは、PCソフトのJRA-VAN NEXT(ネクスト)やスマートフォンアプリ、ニッチなデータを活用したい方のためのJRA-VAN DataLab.(データラボ)、手軽に予想したい方にはJRA-VAN TRYなど、様々なサービスを提供しています。JRA公式データ(過去のレースデータ、出馬表、オッズ、調教データ、血統情報など)を30年以上分、幅広く利用することができ、多くの競馬ファンに愛されています。ぜひJRA-VANをフル活用して、競馬をさらに楽しんでください。